金属組織について

 金属組織について(1)

 

  熱処理作業について学習を行う前に、今までにお話ししてきた中で出てきた金属組織について、その特徴を若干解説しておきましょう。

フェライト

純鉄に微量(常温で0.00004%、723℃で00218%)のCを固溶したα−固溶体のことで、組織学上フェライトと云います。また、α−鉄、地鉄と呼ばれることもあります。ラテン語の鉄Ferrum(フェルーム)からきています。bccの結晶構造を持ち、A変態点でγ−鉄に変わります。軟らかく延性に優れ、常温から780℃までは強磁性体です。顕微鏡的にはオーステナイトと同様、多角形状の集合体で腐食されにくい組織です。硬さは70〜100HVです。  

セメンタイト

FeとC(6.69%)の金属間化合物です。炭化物とも呼ばれFeCで表されます。金属光沢を有し硬くてもろく、常温では強磁性体ですが、213℃(A変態:キューリ点)で磁性を失います。顕微鏡的には層状、球状、網状、針状を呈し、特に球状をしたものを球状セメンタイトと呼んでいます。耐摩耗性が要求される工具や軸受けなどではなくてはならない組織の一つです。通常は腐食され難く、白色を呈していますが、ピクリン酸ソーダのアルカリ溶液で煮沸すると黒色になります。また、FeCは比較的不安定な化合物で、900℃程度の温度で、長時間加熱すると黒鉛(グラファイト)に分解します。硬さは1200HV程度です。

パーライト

0.77%Cの鋼がA変態点で生じた共析晶です。フェライトとFeCが極く薄い層で交互に並んだもので、一見パール(真珠貝)のような色合いを示すことから、パーライトと呼んでいます。パーライトはオーステナイト状態の鋼を、ゆっくり冷やした時に得られる組織で、冷却速度の相違によって層間隔が異なるため、3つに分類しています。普通パーライト(粗パーライト)は100倍程度で層状が認められ、一般的に観察されるものです。中パーライトは1000倍位で認められず、2000倍で層間隔がわかる程度です。また、微細パーライトは焼入れ冷却途中で、S曲線の鼻にかかり、生じたもので、2000倍でも層状が認めがたい組織です。硬さは240HV程度です。

マルテンサイト

1891年ドイツのマルテンスによって発見された組織で、Cを固溶したα−固溶体のことです。オーステナイトを急冷したとき無拡散変態、つまり、焼入れした時に得られる組織で結晶構造は、体心正方晶及び体心立方晶とがあります。組織的には麻の葉状又は針状を呈しています。鋼の熱処理の内で最も硬くもろい組織で、強磁性を示します。このマルテンサイトを100〜200℃で焼戻しを行うと、FeCが析出し、若干粘り強くなりますが腐食されやすくなります。この状態のマルテンサイトを焼入れの場合と区別し、焼戻マルテンサイトと呼んでいます。硬さは0.2%Cで500HV、0.8%Cで850HV程度です。
金属組織について(2) 一般的な熱処理についてお話をしましたので、それらの処理によって生じた金属組織について、前に記述しなかった組織を概略解説しましょう。

スッテダイト

りん化鉄(FeP)と含りんオーステナイトの共晶を云います。熱処理では直接関係がありませんので省きましたが、片状黒鉛鋳鉄中の含りん共晶は、このスッテダイトです。また、Pを多く含む炭素鋼にも現れることがあります。

レデブライト

鉄鋼材料を融液から冷却してくると、1148℃でオーステナイトとセメンタイトが同時に晶出します。この共晶をレデブライト又はウエストと呼んでいます。レデブライトのC量は4.3%です。

複炭化物

FeとC、Mo、W、V、Crなど2種類以上の元素が化合してできた金属間化合物を複炭化物と云います。ダイス鋼(SKD)や高速度鋼(SKH)などの高合金鋼に多く存在する炭化物で、MC、MC、M23などがあります。Mは(FeCr)、(FeMo)など添加した金属元素を表します。写真9SKD11中の複炭化物です。

繊維状組織

冷間で加工し塑性変形を与えれば、結晶粒は加工方向に繊維状に伸び、加工度が大きくなると結晶粒は繊維を束ねたような組織にあります。このように加工方向に伸びた組織を繊維状組織と云います。写真10はその一例ですが、伸びた方向と直角方向では強度がかなり違います。このような組織は再結晶温度以上に加熱すれば元に戻ります。

トルースタイト

焼入れによって得られたマルテンサイトは、α鉄に多量のCが固溶したもので、硬くてもろい性質があります。これを粘い性質にするために、Cを吐き出させる必要があります。約400℃に加熱(焼戻し)すると、硬いマルテンサイトからFeCの形でCを吐き出します。この組織がトルースタイトです。フェライトとセメンタイトの混合組織で、マルテンサイトに次ぐ硬さです。ばね性もありますが、さびやすいのが欠点です。フランスのトルーストによって発見されました。硬さは400HV程度です。

ソルバイト

この組織もフェライトとセメンタイトの混合組織です。マルテンサイトをトルースタイトよりもさらに高い温度(550〜650℃)で焼戻しをすると得られます。FeCがやや粗大化し、トルースタイトよりもさらに凝集した模様を呈します。軟らかくショックに強いため、じん性が要求される機械部品に多用されています。また、窒化や高周波焼入れの前処理として施されます。イギリスのソルビーが命名したもので、硬さは270HV位です。

ベイナイト

オーステナイト化した鋼を焼入れする際、Ar′変態とAr″変態の中間の温度で等温処理すると、得られる独特な組織です。等温処理温度が高い(450〜550℃)場合は、黒色の羽毛状(パーライトに近い)の組織が、また、比較的Ms点に近い温度で処理すると、針状(マルテンサイトに近い)の組織となります。羽毛状を上部ベイナイト、針状を下部ベイナイトと云います。いずれのベイナイトも、硬さが同一ならば通常の焼入れ・焼戻し材よりも粘り強い性質を持っています。米国のベインが発見したのでこの名前が付いています。