(2)
機械構造用炭素鋼 |
機械構造用炭素鋼とは、炭素(C)を0.10〜0.60%含有するもので、一般にはSC材と呼ばれており、SとCの間に数字が表示されている。この数字は規定されているC量の代表値(中間値またはその近似値)を示しており、例えばS45Cの炭素量は0.42〜0.48%である。このC量は平衡状態(完全焼なまし)のときの硬さの目安になるものであり、一般にはC量が多いほど高い硬さが得られる。この理由は鋼中では炭素は鉄と化合して硬質の炭化物(セメンタイト:Fe3C)を形成するためである。
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(3)
機械構造用合金鋼 |
機械構造用合金鋼とは、0.12〜0.50%の炭素のほかに表1.2に示すような種々の合金元素を適量添加したものである。これら合金元素の添加は鋼の性質に多大な影響を及ぼすため、使用する際には炭素量とその合金元素の種類や量が選定目安になる。
@高い硬さが必要なときはC量の多い鋼種を選ぶ
A高い引張強さが必要なときはC量が多く、CrやMoを含有する鋼種を選ぶ
B高いじん性が必要なときはC量が少なく、NiやMnを含有する鋼種を選ぶ
C高い引張強さと高いじん性の両方が必要なときはCr、MoおよびNiすべてを含有する鋼種を選ぶ
D大型部品で内部強度まで必要なときはMn、Cr、Moなどを多量含有する鋼種を選ぶ
例えば、要求される引張強さが800MPa以下の小型部品であればS45C程度でも良いが、800~1000MPaが必要であればSCM435やSCM440を、1000MPa以上が必要であればSNCM439を使用するほうがじん性まで加味した場合には有利である。しかし、いずれの場合も焼入れ焼戻しとの組み合わせによってはじめて性能が発揮されるのである。ただし、MoやNiを含有する鋼種の利用は材料コストが高騰するため、過剰品質にならないように考慮し、要求に応じた最適鋼種の選定と熱処理をうまく組み合わせなければならない。 |
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表1.2 機械構造用合金鋼に添加されている合金元素の種類と量
鋼種 |
合金元素の種類と添加量(%) |
名称 |
記号 |
Mn |
Cr |
Ni |
Mo |
クロム鋼 |
SCr |
0.60〜0.85 |
0.90〜1.20 |
- |
- |
クロムモリブデン鋼 |
SCM |
0.30〜1.00 |
0.90〜1.50 |
- |
0.15〜0.45 |
ニッケルクロム鋼 |
SNC |
0.35〜0.80 |
0.20〜1.00 |
1.00〜3.50 |
- |
ニッケルクロムモリブデン鋼 |
SNCM |
0.30〜1.20 |
0.40〜3.50 |
0.40〜4.50 |
0.15〜0.70 |
マンガン鋼 |
SMn |
1.20〜1.65 |
- |
- |
- |
マンガンクロム鋼 |
SMnC |
1.20〜1.65 |
0.35〜0.70 |
- |
- |
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(4)
焼入性を保証した構造用鋼 |
焼入性を保証した構造用鋼とは、化学成分はあまり重視しないで、焼入れした際の表面硬さだけでなく、内部への硬さの推移まで保証したものである。主な用途は肉厚の大型部品である。鋼種記号は、機械構造用合金鋼の記号の末尾にH(焼入性:Hardenability)を付けて表すため、通称H鋼とも呼ばれている。
例えば、図1.3はSCM435Hの表面から内部への硬さ推移曲線を示したものであり、上限と下限が規定されている。なお、この硬さ推移曲線はJIS
G 0561の鋼の焼入性試験方法(一端焼入方法)によるものである。H鋼はこの硬さ推移曲線を重視しているため、図中に示したように、SCM435Hの化学成分のうちC、Mn、CrおよびMoの規制値はSCM435に比べて範囲が広い。
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C |
Mn |
Cr |
Mo |
SCM435 |
0.33
〜0.38 |
0.60
〜0.90 |
0.90
〜1.20 |
0.15
〜0.30 |
SCM435H |
0.32
〜0.39 |
0.55
〜0.95 |
0.85
〜1.25 |
0.15
〜0.35 |
図1.3 |
SCM435Hの硬さ推移曲線および
SCM435との成分規制値の比較 |
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3.硬さと機械的性質の関係 |
機械部品の機械的性質を決定する主因は硬さであり、その値から機械的性質を推定することができる。そのため、機械部品の設計図面では必ず硬さを指定しており、その指定された硬さを得るべく熱処理が実施されるのである。機械的性質とは、強さとじん性のことで、前者は引張強さ、ねじり強さ、曲げ強さなど、後者は伸び、絞り、衝撃強さ、たわみ量などで比較されている。この強さとじん性は逆の傾向を示すことが多く、同一材料であれば強さの大きいものはじん性は小さいのが普通である。
鋼種や熱処理条件にはあまり関係なく、硬さと引張強さとの間には図1.4(近似的硬さ換算表から作図)に示すような近似的関係があるため、硬さを測定すれば引張強さを推定することができる。ただし、この図は0.6mass%以下の炭素を含有する鋼の焼なまし材や調質材に適用されるもので、高い硬さが要求される工具鋼には適用できない。
例えば、もっとも軟質な実用鋼は100HV位の硬さであるから、図1-4から明らかなように、その引張強さは300N/mm2程度であることが分かる。また、要求される引張強さが1000
N/mm2であれば、材料選定や熱処理によって300HV位の硬さにすればよい。
図1.5はS48CおよびSCM435について、730〜850℃から焼入れ後、200〜650℃で2時間焼戻しを行い、引張試験およびねじり試験を行った試験結果である。ただし、このときの引張試験およびねじり試験片としては、表面と中心部が同一硬さになるように図1.6に示すような平行部の直径は12mmのものを用いた。なお、焼入加熱は窒素ガス雰囲気中で行い、加熱時間は20分とした。また、焼入冷却は硬さの均一化を図るため、S48Cは水冷、SCM435は油冷とした。
材質や熱処理条件に関係なくすべての値をプロットしたところ、硬さと機械的性質はほぼ直線関係を示すことが確認された。しかも、引張強さ、降伏点、せん断強さ、伸びおよび絞りすべての値について硬さによって推定できるといえる。ただし、A1変態点とA3変態点の中間の温度から焼入れしたとき(図中の白抜き記号)の焼入組織はマルテンサイト+フェライトの二層組織であり、A3変態点以上の温度から焼入れしたもの(図中の黒記号)は均一なマルテンサイトを呈していたものである。
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図1.4 硬さと引張強さの近似的関係 |
図1.5 |
S48CおよびSCM435の硬さと
機械的性質の関係 |
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しかし、硬さは同じであっても衝撃値は熱処理条件だけでなく、合金元素の種類や量、結晶粒度などにも大きな影響を受けるため、硬さのみによる推定は不可能である。
図1.7はS48CとSCM435の焼入れ焼戻し後の硬さと衝撃値の関係を示したものである。このときの試験片はJIS
Z 2202の4号試験片を用い、シャルピー衝撃試験によって測定した結果である。なお、このときの熱処理条件は図1.5の試験片と同様である。SCM435については、フェライトが残存しているもの(760℃から焼入れ)と通常の焼入条件のもの(850℃から焼入れ)も比較したが、前者のほうが若干高い値が得られている程度であり、両者間には明確な優位差は認められなかった。ただし、鋼種間には大きな差が認められ、しかもその差は硬さが低いものほど大きくなる傾向を呈している。以上のことから。強靭性が要求されるのであればこの両者間ではSCM435を選定すべきであることが分かる。 |
図1.7 |
S48CおよびSCM435の硬さと
シャルピー衝撃値の関係 |
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