熱処理技術講座 >> 「熱処理のやさしい話」
第9章 焼なまし・焼ならし
(1)焼なましについて
焼なましとは、鋼の結晶粒度を調整し、軟らかくする操作で、その目的によって種々な方法があります。いずれの場合も、
①A3又はA3-1変態点以上+50℃に加熱し、完全にオーステナイト化させます。
②Ar1点直下(約700℃)でオーステナイトをパーライトに変態させます。
(2)完全焼なまし
一般的に焼なましと云えば、この完全焼なましのことを云います。変態点以上+50℃の温度に加熱した後、約25~40℃/h以下の温度で炉冷します。
冷やし方は炉冷ですが、室温までゆっくりと冷やす必要はありません。臨界区域(約550℃)位まで炉冷したら、炉から取り出し後が空冷で良いのです。ただし、残留応力を嫌う場合は、400℃位まで徐冷すると良いでしょう。
(3)等温焼なまし
等温冷却を利用する方法です。TA温度から約600℃(S曲線の鼻より高い温度)に保った等温炉に入れ、等温変態が終了した後、取り出して空冷します。この処理は短時間で操作が完了でき、また、炉の循環的な利用も可能です。
(4)球状化焼なまし
パーライト中のセメンタイトを又は網状セメンタイトを球状化させるための焼なましです。球状化の方法には、
①Ac1点直下又は直上の温度に長時間加熱した後、ゆっくり冷やす方法。
②Ac1点の直上まで加熱し、Ar1点直下まで冷却を数回繰返し行う方法。
③簡単に球状化したい場合、また、構造用鋼など球状化がし難い鋼は、一度焼入れを行い、高温(650~700℃)で焼戻しを行うと比較的球状化が容易にできます。
(5)応力除去焼なまし
冷間鍛造や圧延、溶接、鋳造品などの残留応力を除去し、軟化させたり、ひずみを少なくするための処理で、一種の低温焼なましです。加熱温度は鋼の再結晶温度(約450℃)以上、A1変態点以下の温度です。通常は550~650℃が多く用いられています。冷却は徐冷(炉冷)が良いが、450℃以下は空冷でも効果的です。また、焼入変形を少なくするための前処理としての効果もあります。
焼ならし(N)
鋼を標準状態、つまり、ノーマルな状態にする処理です。前加工の影響を除き、結晶粒を微細にし機械的性質の改善を目的としています。処理方法は、
①A3又はAcm変態点以上+50℃に加熱し、完全にオーステナイト化させます。
②冷却は空中放冷です。
(1)普通焼ならし
所定の温度から常温まで、大気中で放冷する操作を普通焼ならしと云います。冷却は大気放冷で十分であるが、大気の状態、気温、風向き、部品の大きさなどによって、所定の硬さが得られない場合があります。特にNiを含んだ構造用合金鋼は自硬性が強いため、軟化しないことがあります。このような場合には、焼戻しによって目的とする硬さにしなければなりません。この操作をノル・テンと云います。
(2)等温焼ならし
S曲線の鼻の温度に相当する等温炉に挿入し、等温変態が終了した後取り出して空冷を行います。鼻までの冷却時間は速い方が良く、熱風冷却が用いられます。この処理は鋼の被切削性を向上させるのに有効です。別名をサイクル・アニリーングとも呼んでいます。