熱処理技術講座 >> 「熱処理のやさしい話」
第22章 硬さ試験
硬さ試験
硬さの物理的意義はなかなか難しく、決まった定義はありませんが、簡単に云えば[一物体の硬さとは他の物体で押しつけたとき示す抵抗の大きさ]と云うことにあります。したがって、この試験機も原理に基づくものが大部分で、JISでもこの種の硬さ試験機と試験方法が規定されています。以下簡単に各種の硬さ試験機について解説しましょう。
(1)ブリネル硬さ試験方法
(JISZ2243)
他の硬さ試験機に比べて、試験荷重が大きく、また、くぼみも大きく試料の平均的硬さを求めるのに適しています。したがって、素材、圧延材、鍛造品、鋳物などの硬さ試験に向いています。また、くぼみが大きいことから薄ものや完成品には不向きです。試験荷重は29.42kNまでの圧縮荷重が加えられ、荷重機構によって色々な種類があり、通常は油圧型とてこ型が多く用いられています。鋼球又は超硬合金球の圧子を用い、試験面に球分のくぼみを付けたときの試験荷重とくぼみの表面積から求めた硬さで、HBで表します。
(2)ビッカース硬さ試験方法
(JISZ2244)
圧子の形は正四角錐で、くぼみの形は常に相似形です。したがって、硬さが均一な同一試料では、どの荷重を選んでも得られる硬さは変わりません。試料や目的に応じて試験荷重が自由に選べます。小さい試料や薄い試料、脱炭層、残留オーステナイトなどの非常に微小な部分、又は浸炭層、窒化層など表面からの硬さ分布など細かく求めることができ、微小試料の検査には最も威力を発揮しています。対面角が136のダイヤモンド正四角錐圧子を用い、試験面にくぼみを付けたときの試験荷重とくぼみの表面積から求めた硬さで、HVで表示します。なお、実際には熱処理工場では荷重の小さいマイクロビッカース硬さ試験機が多用されています
(3)ロックウエル硬さ試験方法
(JISZ2245)
この試験機は3段階の試験荷重とダイヤモンド、鋼球圧子の組合せによって広い範囲の硬さ測定に利用されています。個人誤差や測定誤差が少なく、しかも圧痕が比較的小さく、熱処理した仕上げ品の硬さ測定に適しています。この試験機は硬さのスケールが30種類ありますが、一つのスケールで試験する硬さの範囲が限られ、硬い材料から軟らかい材料まで、同一スケールで比較することはできません。例えば焼入れ品と焼なまし品あるいは純銅などは、異なるスケールで試験することになり、これらの関係を直接比較することはできません。
(4)ショアー硬さ試験方法
(JISZ2246)
小型軽量でどこでも持ち運びができ、操作が極めて簡単であり、しかも非常に短時間で硬さ値が得られます。また、他の試験機ではできないような大型試料でも試験ができ、くぼみも小さく完成品の硬さ測定に適しています。また、尺度は一種類ですから軟らかいものから硬い焼入れ品まで測定ができます。しかしながら、測定条件に左右されやすく、個人誤差、測定誤差が出やすいので精度良く測定するには、熟練が必要です。また、原理的に反発硬さであることから、ヤング率が同じような材料の硬さは比較できますが、著しく異なる場合は比較できません。例えば鋼の場合は焼入れ品でも焼なまし品でも比較できますが、消しゴムが鋼より硬いと云う矛盾も出てしまいます。
硬さの表示はHSで表します。