熱処理技術講座 >> 「熱処理のやさしい話」
第3章 鉄鋼材料とは
(1)どんな状態で納入されるか
製鋼メーカあるいは鋼材問屋から、素材が納入される場合、どんな状態で納入されるか、知ることは部品に機械加工をしたり、熱処理を行う場合重要なことです。一般的には鋼材に添付されているミルシートによって確認ができますが、その履歴が不明な場合も少なくありません。鋼材と納入時の記号については、一般鋼材は圧延のまま、Rの状態で納入されます。これは熱間圧延後空冷をした状態です。空冷だから焼ならしNと勘違いをしてはいけません。N品はR品を再加熱して空冷を行い、結晶粒を調整したものです。R処理の段階で冷却速度を調節し、所要の硬さと強さにした鋼を非調質鋼と云い、熱処理を行わないで用いる鋼です。組織はパーライトです。調質を行った同じ強度のものと比較すると、じん性が若干劣ります。
冷間鍛造用鋼やSUJなどは球状化焼なまし(HAS)の状態で納入されます。丸棒の場合が多いのでこのまま使用しますが、熱間鍛造や熱間圧延などで板状にした場合は、炭化物が網状になっていることがあり、再度球状化焼なまし行う必要があります。これは焼割れや焼曲がりを防止する目的です。Aと記されている鋼は焼まなし材です。一般的にはこのまま使用しますが、機械加工や冷間加工などしたものは、応力除去焼なましSRすることが必要です。なお、前述した焼ならし材もそのまま使用しても良いが、硬すぎて機械加工が困難な場合には、テンパ(ノル・テン)をして硬さをコントロールすることも大切です。Cの鋳造品はそのままの状態で用いますが、拡散焼なましか応力除去焼なましを行って使用した方が安全です。また、F記号の鍛造品はこのままで用いますが、より安全性を求めるなら、N又はA処理を行った方が望ましいでしょう。
(2)種々な鉄鋼材料とその特性
まず、鉄鋼材料の種類とその特性について、概略な知識を得ておきましょう。
JISでは鉄鋼を次にように区別しています。鉄は前述した銑鉄、合金鉄、鋳鉄の3つ、鋼は普通鋼、特殊鋼、鋳鍛鋼です。さらに普通鋼は条鋼、厚板、薄板、鋼管、線材、線のような形状別に、また、特殊鋼は合金鋼、工具鋼、特殊用途鋼などのように性状別に分類されています。このように種々分類されていますが、基本的には前述したC量によって鉄、鋼、鋳鉄の3つに分けているに過ぎません。鉄にC、Si、Mn、P、Sの5元素が含まれた鋼を炭素鋼又は普通鋼と云います。この普通鋼にNi、Cr、Moなどの特殊元素が添加されて、特殊な性質を示すような鋼を特殊鋼と呼んでいます。特殊鋼の内、焼入れ・高温焼戻し(調質)を行って使用するものを合金鋼、工具に用いるものを工具鋼、特殊用途に使う鋼を特殊用途鋼と云っています。表7は鉄鋼材料を分類したものです。以下各種の鋼材について、その特徴を概略解説しましょう。
普通鋼材
- 一般構造用圧延鋼材(SS材)
- この鋼はJISで決められている鋼材の内で、最も多く使用されているものです。特にSS400の使用量が多く、主要部材を除くほかは、多くの機械及び構造部材として鋼板、平鋼、棒鋼、形鋼などとして用いられています。最近では製鋼の技術レベルアップから品質も安定し、溶接性においてもSS410は板厚50mm以内ではそれほど問題になることはありません。ただ、溶接性や低温じん性について保証する検査が行われていませんので、粗悪品が混入する危険性があります。SS500、550は原則として溶接をしない部分に使用するのが安全です。SS材はPとSが規定されているだけで、他の元素は規定されていません。したがって、実際に使用する場合には、次式によって計算をします。
引張り強さ(Mpa)≒20+100×C%
- また、C%が低いため浸炭焼入れして使われることが多く、特にSPCC(冷間圧延鋼板)は浸炭焼入れして機械部品に用いられています。SS材はリムド鋼から作られていますので、浸炭焼入れ時に硬さむらや結晶粒の粗大化が生じて、ぜい化することがありますので要注意です。
- この鋼はJISで決められている鋼材の内で、最も多く使用されているものです。特にSS400の使用量が多く、主要部材を除くほかは、多くの機械及び構造部材として鋼板、平鋼、棒鋼、形鋼などとして用いられています。最近では製鋼の技術レベルアップから品質も安定し、溶接性においてもSS410は板厚50mm以内ではそれほど問題になることはありません。ただ、溶接性や低温じん性について保証する検査が行われていませんので、粗悪品が混入する危険性があります。SS500、550は原則として溶接をしない部分に使用するのが安全です。SS材はPとSが規定されているだけで、他の元素は規定されていません。したがって、実際に使用する場合には、次式によって計算をします。
- 溶接構造用圧延鋼材(SM)
SS材の次に多く用いられている鋼種です。SM材の特徴は溶接性に優れていることです。そのため、C、Si、Mn%を規定しています。BとC種は衝撃試験を行って、ある値の低温じん性を保証していますので、心配する必要はありません。しかしながら、SM500以上では溶接に十分な注意と熱処理が必要です。 - 高張力鋼材(ハイテン)
- 高張力鋼の定義や規格はJISにはありませんが、引張り強さ60N/mm2以上、降伏点30N/mm2の鋼を対象にしています。現在は60、100、150Mpa級のハイテンもあります。SM材もハイテンの1種です。
合金鋼材
- 機械構造用炭素鋼材(S-C材)
- 炭素鋼はSS材よりも不純物が少なく、製鋼法にも注意をし、熱処理をして用いることになっています。熱処理には焼ならし、焼入れ・焼戻し(調質)、高周波焼入れ、浸炭焼入れなどがあります。S-C材のC%は0.08~0.61%まで、つまり、S10C~S58Cまでの鋼です。これより高いC%量になるとSK材になります。また、S9CK、S15CKが浸炭用として規定されていますが、Kとは高級(Kokyu)のKです。
- 構造用合金鋼材(SA材:A=Alloy)
- この種の鋼は種類も多く、一般的には調質あるいは浸炭、窒化などを施して用います。つまり、熱処理による機械的性質の改善効果は、化学成分や部品の大きさなどによって異なりますので、目的とする性質と大きさなどの点を考慮し、適当な鋼種を選ぶことが大切です。CrやMo、B(ボロン)を含むものは、焼入性が良いので大型部品用に、また、Niを含むものはじん性が要求される場合に適しています。なお、この種のグループには焼入性を保証したH鋼があります。調質を行って用いるSA材は、単に化学成分のみが指定されているのではなく、焼入性も指定して適材適所に使用しています。H鋼は所要の焼入硬さが確実に得られる鋼として保証されているのです。また、この種の鋼には非調質鋼と云うのがあります。これは熱処理加工専門メーカにとっては大変な痛手です。熱処理が必要ない鋼なのです。一般的にSC材やSA材は調質を行って用いますので、調質鋼と云いますが、この鋼にV、Nb(ニオブ)、Tiなど少量添加(これをマイクロアロイと云います)し、圧延の時冷却速度を調整すると所要の強度が得られるのです。調質がいらない鋼と云うことで非調質鋼と呼んでいます。省エネ、コストダウン用材料として自動車、建設機械用部品などに賞用されています。まだJIS化はされていません。
工具鋼材
- 工具用炭素鋼材(SK材)
- この種の鋼は機械構造用部材としては殆ど用いられず、多くの場合耐摩耗用部材として使用されています。SK材はC%によってSK1~SK7まで規定され、C量が多いほど小さい数字です。一番使いやすいのがSK5です。これは一番焼きが入りやすく、耐摩耗やじん性に優れているからです。いずれの鋼種においても、素材の状態では球状化焼なまし材であり、耐摩耗の場合は焼入れ後低温焼戻し、また、強じん性が必要な場合は高温焼戻しで用います。
- 合金工具鋼(SKS、SKD)
- SK材にW、Cr、Mo、Vなどの特殊元素を添加した鋼です。添加されている元素の種類と量の相違によって、耐摩耗用、耐衝撃用、耐不変形用、耐熱用などに分けられています。いずれの場合も球状化焼なましの状態で納入され、硬い複炭化物が存在しています。主に金型や工具類に多用されています。
- 高速度鋼(SKH)
- W系(Tタイプ)とMo系(Mタイプ)の2種類があります。以前はW系が主流でしたが、最近では耐摩耗性、耐熱性、強じん性ともに備わったMo系が多く用いられています。焼入温度は鋼種によって若干異なりますが、高いのが欠点です。しかしながら、優れた焼戻し軟化抵抗やじん性が得られるため、高級な金型や工具として広く用いられています。
特殊用途鋼材(SU材)
- ステンレス鋼(SUS材)
- ステンレス鋼には次の4種類があります。
- マルテンサイト系(13Cr系)・・・・・・焼入れし硬くして用います。磁性があります。
- フェライト系(18Cr系)・・・・・・・・・・軟質なステンレス鋼です。磁性があります。
- オーステナイト系(18-8系)・・・・・耐食性用です。磁石に付きません。
- 析出硬化系(PH系)・・・・・・・・・・・・析出硬化させて使用します。磁性があります。
- マルテンサイト系は、焼入硬化して用いる鋼で、主に耐食性が要求される刃物用工具や機械構造用強力部材に使用します。(SUS440、SUS420J2など)
- フェライト系のステンレス鋼は、軟質なため塑性加工に適し、特にSUS430は高温における耐酸化性に優れています、また、熱膨張係数も小さく、耐熱耐食用機械部材として多用されています。
- オーステナイト系のステンレス鋼は、耐食性が最も優れています。-150℃以下の温度でサブゼロ処理するとマルテンサイトに変態し硬化します。代表的なSUS304は約1050℃から水中急冷を行うと、組織がオーステナイトとなりますが、450~850℃で再加熱すると、耐食性が劣り粒界腐食を起こすようになりますので要注意です。また、本来は非磁性ですが、常温で冷間加工を行うと、磁性を持つようになります。磁性を嫌うような場合は100~150℃で温間加工を行えば大丈夫です。
- 析出型ステンレス鋼は、17-4PH(SUS630)と17-7PH(SUS631)の2つがあります。いずれも固溶化熱処理(S処理)後析出硬化処理(H処理)をして用います。
- ステンレス鋼には次の4種類があります。
- 高C-高Cr軸受鋼材(SUJ材)
- 球状化炭化物が均一に分布した鋼で、耐摩耗性に優れ各種のベアリングに多用されています。SUJ2は一般的ですが、SUJ3はMnが含まれているので、厚肉大物に適しています。
- ばね鋼材(SUP材)
- 一番良く用いられているのがSUP6と9です。耐衝撃や耐疲労性に優れています。Siが若干多めに添加されていますので、残留オーステナイトが生成し易い鋼です。
- 快削鋼材(SUM材)
- 一般の鋼よりも快削性を向上させた鋼を快削鋼と云います。快削性を上げる元素には種々なものがありますが。快削鋼として用いられているのはS、Te(テルル)、Pb(鉛)、Se(セシウム)などです。これらを単独にあるいは2種以上を添加して用いています。低C鋼をベースとしたものが多いため、主に快削性が主体で、強度の高い部材にはあまり使用されていません。
この他鋳鋼、鋳鉄が幾つかありますが省略しました。興味のある方は他の参考書を勉強して下さい。