熱処理技術講座 >> 「熱処理のやさしい話」
第17章 鉄鋼材料の試験と検査について(1)
金属組織試験とは
金属組織試験には、光学顕微鏡や電子顕微鏡を用いて行うミクロ的な試験と、目視や低倍率の拡大鏡を用いて行うマクロ的試験法があります。
(1)ミクロ的組織試験
金属及び合金の諸特性は、基本的には添加元素の種類と量によって決定されますが、熱間あるいは冷間加工、熱処理などによる微視的な組織の変化も又密接な関係があります。つまり、微視的に金属組織を観察することにより、鋳造や鍛造あるいは熱処理、溶接などの適否、また、結晶粒の大きさ、非金属介在物の有無と分布など広範囲にわたって材料の性状が判断できます。一般的な金属組織試験法は、
(a)試料の採取:検査の目的に合った部分から採取する。
(b)研磨及び琢磨:試料面を平滑にし、かつ、鏡面にする操作。
(c)エッチング:電気的、化学的な方法によって金属組織を現出させる。
(d)検鏡:顕微鏡を用いレンズを通して組織を観察及び写真撮影を行う。
(e)組織の判定:組織を解析し欠陥との関係、熱処理操作の良否など判定する。
以上のような行程で組織検査を行います。
(2)試料の作り方
小さなものはそのまま試料として用いますが、大きな材料から採取する場合は、正しい検鏡結果が得られるような位置からサンプリングする必要があります。一般的には、
(a)組織検査用試料の場合は、各端部と中央部及び表面近傍から採取。
(b)欠陥検査のための試料は、欠陥の発生部を含む位置及びその近傍から採取。
(c)鍛造や圧延加工など行ったものあるいは不純物(酸化物、非金属介在物など)や炭化物の分布状態など検討する場合は、方向性を考慮し縦断面、横断面から採取。
(d)ガス切断など溶断した試料から採取する場合は、熱の影響を避けて採取。
します。いずれの場合も、切断時の発熱やひずみには十分注意する必要があります。
(3)試料の埋込みと支持
小物、薄片あるいは表面硬化処理品、めっき、脱炭層などを検鏡する場合は、取り扱いが便利なようにするため、合成樹脂か低溶融金属又は適当なジグによって支持します。
(4)研磨と琢磨
支持した試料を平滑にかつ鏡面にするため、サンドペーパ又はエミリペーパを用いて粗研磨、中間研磨、仕上げ研磨を行い、さらにフェルトを用い琢磨を行い鏡面とします 。
(5)エッチング
鏡面研磨が終了したら組織を現出します。組織の現出には電気化学的な方法と化学的な方法とがあります。18-8ステンレス鋼や高Mn鋼などは化学的にはエッチングが困難なため、電解エッチングを行い、他の鋼は大体化学エッチングです。エッチング液には種々なものがありますが、一般的には電解の場合過飽和なシュウ酸が、また、化学エッチング液には硝酸アルコール溶液(ナイタル)、ピクリン酸アルコール溶液(ピクラル)、塩化第二鉄溶液などが多く用いられます。エッチングの程度は観察する倍率によって異なり、低倍率の場合は濃いめに、高倍率では薄目にします。